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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
けれど浮薄な世態は、それを飽きるとすぐ捨てて、また次の興味や刺戟をさがしていた。――だからふたりの死を、今から疑ってみるなどというはおろか、そんな男女が、いつどこに、生きていたか消えて行ったか、親身の親でもなければ、思い出してみるひともいなかった。
ところが、その後、駒込辺の一寺院に、似ているというもおろか、実にそっくりな女性が、時折、貴賓があると、客室へ茶を運んだりして、楚々たるすがたを見せていた。
お梵妻の姪で名は小枝という。そう聞けばやはり違うかと思うものの、見れば見るほど瓜ふたつである。
もっとも、かの女を見たり素性を訊ねたりした者は、数ある客のうちでも、藤井紋太夫ひとりしかなかった。紋太夫の来た時しか、給仕にもあいさつにも出なかったからである。
程なくかの女は、此寺からもすがたを消した。檀家先の藤井家へ好まれて小間使にさし出したという。それだけは確実らしい。以後、かの女のすがたをここで見た者はない。
すると、それから後、いく度か、ここの住持をそっと訪ねて来た浪人者がある。いぶせき編笠に、埃まみれの肩を蔽い、来ると住持の部屋に入って、碁を打つでもなし、酒をのむでもなし、かなり長座だが、何かぼそぼそ話してゆく。