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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
五
と称しているゆえんである。
いわゆる奸臣の閥にも、正義をたてとする血気な一部にも、また、いかだ組にも、老公は真実、心の奥で、
「……困ったもの」
と、思っていた。
けれど、憎いやつ、不埒な臣下どもとは、思えなかった。
ひとり罪をおのれに帰しているばかりでなく、彼の眼から見てはまったく、どれもこれも、短所があれば短所なりに、悪心があれば悪心があるなりに、可愛い者たちであったのである。
「――この日の本に生れたありがたさもわからねば、この国土に報じて、一瞬のいのちを、無窮に生かそうとする――長命の法も、さとらぬ憐れなもの、不愍な者……」
事実、そう考えるのであった。何十年来、藩にかかえておいた家臣は、身を退いても、ただ家来、ただ君臣ではなくなっていた。
老公は、大ぜいの子をもった、父という気もちになっていた。
いわんや、その子のうちでも変り者の、人見又四郎という棒のごときは、眼に入れたいほど可愛かったにちがいない。
五
そのうちに下婢が湯漬の膳をはこんでくる。
悦之進、林助も席にもどって、老公へ給仕する。
膳のうえは。
梅ぼし一ツ、蕗味噌、それに一椀の汁、一皿の干魚。