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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

と、訊いた。

介三郎が、

「お医師井上玄桐どの。秋山村右衛門どの、剣持与平どのなど、四、五名おひかえにござります」

と、答えた。

すると、光圀は、

「玄桐をよべ。そちは、起たんでもよい。そこからよべ」

鏡の間から廊下へ通じるあいだにも、一段低い部屋がある。介三郎はそこへ向って、玄桐どの、老公のお召しですと、声をかけた。侍医の玄桐は、役目がらすぐ鏡の間へはいった。入口にまわしてある屏風をかわして、両手をつかえると、光圀はふり向いて、

「そのへんに藤井紋太夫がおるであろう。紋太夫にこれへと申せ」

と、いいつけた。

二十

藤井紋太夫はまだ何も知らない容子であった。

自分のやしきに起っている出来事も。

また、ここに招かれて来ているはずの妻子や老母が、きょうの見物のうちにはいなかったことも。

虫の知らせも覚えぬらしい。

中食のときには家中の席へ交じって、かれも拝領の折弁当を手に楽しげに箸をつけていた。

庭へ毛氈をしいて、茶をのみながら、食後の談笑に耽っているのが、幾組となく、その辺にわかれていた。

「おや、ご家老は、どちらへ行かれたか、今し方、ここにお見えであったが」