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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
その席につく前に、老公は庭へ出て、左右の者にかく命じたのである。ひと山の落葉はすぐ美しい焚火となって冬の月を焦がした。落葉の火の下には、藤井紋太夫以下、紋太夫に組した者の名と血判をつらねた連判状が息のない大蛇のように燃えていた。数通の書簡も一片一片の火と化し、やがて冷やかなる灰となった。
「……これでよい」
老公はにことした。
藩中の加盟者三百余名、もうたれ一人とて罪に問われる心配はない。清風来って竹を払う――である。その一箇一箇の生命が、いかに自覚するか、それらの無数の家族たちがいかに将来へ結果してゆくか、老公のねがうところは、
「みな、わたくしの臣ならず、一藩のものではない。世の大民草よ、栄えあれや、この邦とともに」
それしかなかった。
折ふし、落葉のけむりを仰ぎ、ひとり逍遥しながら、吟じているものがあった。人見又四郎かも知れない。
月は瑞龍の雲に隠るといえども、光はしばらく西山の峰にとどまる、碑をたて銘を勒する者は誰ぞ。
源光圀あざなは子龍……。