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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

そのあいだに、剣持与平は、若いものの間へ割りこんで、

「てまえ、年は各※(二の字点、1-2-22)よりも、すこし老っておるが、戦場と、酒の場では、まだ負れをとらないつもりでござる。さあ、端からいただきましょう」

構えると、若いひとりが、

「実盛どの、健気のお手のうちを拝見しよう」

と、座にあった大杯をひきよせて持たせようとした。

与平はすぐ銚子のつるを持って横にさし向け、

「いざ、あなたから」

と酌いだ。

「なんじゃ、おれが飲むのか。……待て待て、そう酌いでは」

「もう弱音でござるか」

「いや、弱音じゃない」

一息には飲みきれないで、二、三度、眼をつぶる。ようやく、大杯を空けて、敵手を見まわすと、与平はもう隣りから隣りへ四、五人も相手をすまして耳をうしろに何か向うと話しこんでいる。

「こら、実盛、卑怯ではないか」

呼んでもだめである。てんで耳がない。大笑いして、ひとりを薙ぎ、もう次のものへ斬りこんでいる。

「こら」

大杯を持って、そのうしろへ坐ったのが、無態に、与平のからだを抱いて、自分のほうへ向け直すと、与平はもう別人のような酔眼を、朦朧とすえて、

「うれしい。