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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

八

舌の苔を洗っていえ)

(権現様このかた、幕府のご方針として、あまりに、その……国体の本義などを明らかに知らしめますことは)

(だまれっ)

(はっ……)

(などとはなんだ)

(はい)

(国体の本義などとは何事か。徳川の宗家が何だ。ひとしく臣職のものではないか。時来れば、宗家徳川も滅んでよし、尾州紀伊水藩の三家、もとより歴史の興亡にまかせて可なりである。――が、千載万代、朽ちも揺るぎもあってはならぬものはただ一系の大御裔にある。そのお在すところさえ明らかなれば、よし幕府が亡ぼうと世のみだれに遭おうと、ふかい憂いとするに足らぬ。……お身は何かその根本をはきちがえておるのではないか)

了的のひや汗は、畳をうるおすほどだった。からくも人見又左があいだを取って、ていよく、光圀のまえを退ったが、心中安からぬ思いは拭うべくもない。とうとう、ひそかに光圀の父頼房に謁を乞うて、ありのままを訴えた。

八

(ほう……。あれがの? ……ふうむ……)

頼房は、うなずきうなずき、聞いていた。

ふたりの儒臣が、憂いを面にあらわして、お家の大事とばかり、綿々と告げる一伍一什を。

けれど頼房の顔にはいっこう心配らしい容子も現われなかった。