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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

十二

「……あっ。ヤ、ヤ、あのけだもの」

どうも気を散らすのは、いつでも為が先であった。為はまた頓狂な声でどなった。

「野郎、こっちを向いて、尿をしていやがる。――佐々の旦那、もうなんぼ何でも、堪忍はできますまい。注連を張って、おれたちは仕事をしているってえのに、犬のような」

「為っ、うるさい、黙って仕事せい!」

介三郎はめずらしく、為のおしゃべりを、一喝して、あやうくまた躁ぎかけた一同の気をさきに圧えた。

十二

何をやっても怒らない――いや怒れない弱虫と、あまく見たにちがいない。

三人ぐみの浪人者は、それからというもの、毎日のように大手を振って、そこの街道を往来した。

時には、遊び人ていの男を交じえて、生田あたりの怪しげな女などを連れ、真昼なかを人もなげにふざけちらして歩いたりする。

見るな、聞くな、いうな。

介三郎からそう固く封じられている職人たちは、歯がみをして、ただ仕事に精をそそいでいた。

碑の壇石は敷かれた。

九月に入っては、墓山のまわりを、毎日、土叩きしてかため、碑のまわりに神垣を結びはじめた。

十月には、碑の裏面に彫る「楠公賛」の文が、筆者の岡村元春からとどいたので、石屋の権三郎親方は、新たに京都からよんだ六人の石工を督して、それを注連小屋のうちで、彫りにかからせた。