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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

二

「……頭が痛くなった」

終日、隣り合って、黙々と、唖の行をまもり通して働いていた石権や職人たちは、はや手もとも暗くなったので、仕事をしまいながら呟いた。

寒さも夜も忘れはてて、小屋のあたりでは、焚火をし、小屋の中では、大きな蝋燭をいっぱいつけて熱していた。

すると突然。そこの蝋燭の灯が大勢のあたまの上に火襷を描いて飛び合った。

「――な、なにしやがるっ」

「野郎っ」

わけがわからない。

総立ちになって、そこにいる人間が全部、小桶のそこの泥鰌みたいに、足を揃え、頤をつかみ、ものすごい喧嘩をしはじめた。

二

こういう仲間の喧嘩ばかりは、いきさつも心理も局外者にはよく分るところでない。

泥鰌の格闘は、小屋の中だけかと思っていると、いつのまにか裏手のほうでもやっているし、横のほうでもやっている。

「こいつあ、おもしろい」

石権や職人たちは、帰りかけたところだったが、高見の見物とながめていた。

為は勘太にいった。

「わかった。この喧嘩は、おととい連れ立って来た、生田の万と、花隈の熊と、あのふたりの喧嘩だぞ」

「そうかな」

「そうだとも、両方でわめき合っているいい分で知れるじゃあねえか。