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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
「…………」
「夜明けの河水にひたされて、鎧の下着も凍えつらん、者ども、諸所に火を焚け、大焚火をあげよ。――小楠公はそう下知された。救いあげた捕虜たちを、まず温もらせてやったのだ。そしてなお、傷ついた者には薬をあたえ、武器や馬を失くした者には武器や馬をあたえ、大釜に粥を煮て、飢えをもなぐさめ、さてその上で、一同にこういった――」
「…………」
「あわれや兵、おたがいが武士である。勝つも負くるも時の運、敗れて辱ということはない。……だが、不愍なのはおまえたちの立場である。人の子と生れ、同じ弓矢を手にしながら、なんで賊軍の汚名の下に可惜血をながしているか。――おまえ方も生れながらの賊ではない、みな天子の赤子であるはずだ。ただ主人足利尊氏の不心得からやむなくそうなったものだろうが、主に仕えては死を惜しまぬは、また武門の臣節でもある。かえすがえすも尊氏の行いは憎まれるが、思うに、そちたちはただ不愍というほかない。憎んで斬るにも足らないものだ。――ただその忠義が、小節に止まって、大義でないことが惜しまれるものの、これもぜひなき時勢の濁りだろう。早々、京都に帰って、元の主人に忠勤するがいい。