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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

六

「神棚。……いやそれは、ありませんな」

「どうしてないので?」

「どうしてということもござらぬが、代々の住持も、ついそれは持たなかったものとみえまする。……いやいかん、矛盾しますな、自分の言と。……さっそく設けましょう、本院のうちにも神棚を奉じ、それから、愚僧の説を、ひとにも説くことにしましょう。はははは。いや何事も、人間はこの通り、矛盾だらけとみえますな」

六

村名主だの若い衆が、前の日からそこへ行って、掃除にかかったり白木の祭壇を供えたり、祭の支度をしていたので、その朝となると、湊川の碑を中心に、この辺で見たこともない人群れだった。

子ども、女、老婆、百姓、町人――通りがかりの旅人までが、大きな輪を作って、碑前に祭り合う人々を見ていた。

いま……神官がのりとをあげている。

両側に立ち並んでいる人々は、何かの事でこの建碑に関係のある者ばかりだった。

広厳寺の坊さんもいる。坂本村の年寄もいる。職方では石工、大工、かざり師、鏡師、さしもの屋、みんな来ていた。もちろん勘太など、手伝いの端にいたるまで。

土地の者が眼をそばだてたのは、その中に、花隈の熊だの、生田の万だのという顔役から、子分までが、その身なりから顔つきまで、人ちがいする程、真面目になって、祝詞に耳をすましていたことだった。