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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

だんと、地ひびきがした。

羽がい締めに組んで来たうしろの者を、肩ごしに前へ投げ出したのである。

いうまでもなく、ふたつの部屋の灯もただならぬその物音に揺れうごいて、

「何者だっ」

「何事?」

とすぐ縁へ立ち出で、あわただしく家臣を呼ぶ吉保の声もした。

男は、すばやく木の間へ逃げこみ、追いかける者を、なお二、三投げとばしていたが、たちまちそこは、むらがり寄る家臣の包囲するところとなって、嵐のごとく暫し木々や草の騒いでいるうちに、

「出ろっ。――出ぬかっ」

と、縄の端を持って、家臣たちが無理無態に引っぱり出したのを見ると、すでに男は高手小手、鞠のように縛められていた。

「手燭を持て」

吉保は庭へ降りて来た。

そして、男のそばへ近づいた。

「――明りを」

と、もう一度、それを促して、俯向いている若い男を、しげしげと眺め入った。

「だれぞ、この者に、見覚えはないか。どこの小者か」

すると、家臣のひとりが、

「やっ、この者は、いつも検校の供をして、ご当家へもたびたび来ておる中間でございます」

と、さけんだ。

「なに、検校の?」

ひとしく愕いて眼をみはった。ちがいない、そうだ、と口をそろえていう。