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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
七
と、又四郎はふと、身を退けた。そして元の古材木の端に腰を正しくすえて、昼ならば筑波の見えるほうの空へ心もち頭を下げてからいった。
「わが老公のお考えあそばしているように、この国を正しく建て革める。老公ご一代にかなわねば、三代四代幾代かけても、かならずそうせずにはおかないわれわれの誓文のために……お次さん、おれは捨石になる覚悟だ。それが江戸に来たわしの望みだ。わかるかい、さむらいのこんな気もちが」
七
銀河の夜には、ふしぎな男女の出来事が多いという。平常の心理では理解できない心中沙汰などがそれである。
「まったく、若いものの料簡なんて、親のわたしでさえ、わけが分らない。家中誰ひとり、あの娘にむかって、いけないとも、思いきれとも、いいはしないのに」
魚松のおかみさんは、毎日のように、掻口説いていた。お次と又四郎のふたりが、祭の晩に、大川端から身投げしたと、この界隈で、いま、かくれもない評判の中に――。
あの晩、ふたりの穿物が、星の更けた河ばたに揃えてあった。そして翌日になっても、ふたりの影はどこにも見あたらない――と、それからの騒ぎや、うわさであった。
元禄という当時の庶民は、こういう奇行をなす男女があると、唄にしたり、劇に仕組んだり、大仰に美化して、それを麻痺した生活の刺戟にしたり、酒のさかなに興じたりした。