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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

五

月に憂い、酒に放ち、花に悲歌し、老来いよいよ多情多恨な凡人面さえなお若々しいところさえある。

おたがいは人間である。ゆるす――ゆるしあう。

ただそれこの皇国を害するほどな稀代な悪人でない限りには、たとえいま小罪があろうとも生けるうちに一善をもなして国のために奉じる日もあろうかと思われる人間は。

すべてを寛く抱いておきたい。この神国の民にはそうしてもなお死ぬるまで自己の神性に眼ざめないものは、乞食にいたるまでないとかれは信じている。いや信じたいのがかれの性情であった。

だから前に誌した百姓にたいする憐愛や、士にたいする寛大などはまだおろかな例で、その愛は、囚人や畜類にまで及んでいる。

死罪をいい渡された二名の囚人があった。よくある例で、前々から新刀試しを心がけていた目附役の三木松兵衛と某が、それぞれ囚人の身がらをもらいうけて、これを斬った。

一方の目附役は、

「二つ胴にして、見事な成績を得ました」

と、藩庁に届け、且つ斬れ味を衆に誇って、死骸を取り捨てさせた。

三木松兵衛は、

「まず、相当に斬れました」

とのみで、わずかに斬った髪の毛だけを証に見せ、死骸も自分で始末したと称して、多くを語らなかった。