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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
「申しつけておいた支度は調うておるだろうな。出府の駕や供の用意は」
「はっ。――悉皆、相済ましてはおきましたが、ただいま、これにおる悦之進がことばには」
「これこれ、悦之進とは、だれをいう。渡辺悦之進なれば、とくに勘当申しつけてある者。これに来るわけはない。――それにおるは、そちが虚無僧寺にいた頃の旧友、格外という者と思うが、ちごうたかの」
「あっ……そうです、仰せの通り、てまえが佐々十竹の頃の友、渡辺格外に相違ございません」
「そうだろう。――格外」
「はい」
悦之進は、感涙につきあげられていた。
「ふたりで、供をせい。格外もわしに従いて来るがよい」
「えっ、従いて来いとの仰せは?」
「もとより江戸表へ」
「……お! お待ちください。――その儀については、いささか、ご注意申しあげたいことがござりますれば」
「途中のことか」
「万一にも」
「道中の不安ならば案じぬがよい。――いや、このたびこそは、たとえ西山から江戸までの途すがら、いかなる障壁、いかなる危害が、待ちもうけておろうとも、光圀はかならず参る。参らんと我れ思い立ったからには、我れを阻める百難もあろうや。光圀は行くぞ」