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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

――老公の寿碑の文が明らかに久遠へ向っていっているではないか。

「…………」

又四郎は、そういう意味のことを、介三郎へ答えたかった。けれど平常から思慮の深さでは自分などの遠く及ばない人である。その思慮深い介三郎へ今さら何をいおう。釈迦に説法でしかない。――で、彼はやにわに介三郎の手くびを把って、

「果てしない押問答、むだな争いというものだ。このうえは、西山荘へ参って、老公に是か非かのお裁きを仰ごう。さあ、歩け」

と、促した。

「ばかな」

振払って、介三郎は、

「かような事は、老公のお耳に入れてすべきことではない。たださえ憂いのお深いところへ」

「お耳に入れても、入れないでも、結果は同じだろう。ご心配をかける点も同じだ。凡庸なご隠居さまなら知らぬこと、老公ほどなお方、べつに仰天はなさるまい。――やるがよいと思し召せば、眼をおとじ遊ばしても、やれと仰っしゃるに相違ない。また、拙者の考えと同じなら、よせと御意なさるかもしれぬ」

「……むむ。そのことばには一理がある。事ここに至っては、老公におかれても、はや是非なしと仰せられよう。又四郎、来いっ」

意を決したか、介三郎は敢然、大股にあるき出した。