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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
四
四
おしゃべりがすむと、彦兵衛は急に忙しそうにして、猪をおろし、片棒の相手をよんで来て、重そうに担って行った。
林助はあとに残って、足の繃帯をまき直していた。すこし佇んでいると痛み出して来るらしい。舌うちして立ちかけた。
「おい。――江橋、おい」
誰か、いけぞんざいに呼ぶ。林助は思いがけない顔して、小屋の横をのぞいた。
莚のうえに、薪割の鉈が一ちょう見える。それと、読み飽かれたかたちの書物が一冊、人間がひとり、膝を抱えていた。
「……又四郎か」
「江橋、坐れよ」
「こんなところで、何しているのだ」
「陽なたぼッこ」
「のん気だな」
「することがないじゃないか。われわれ若い者の為すことがあるかい」
「あるさ、こん夜は汁講だ」
「箒をかついだり、芋の皮を剥いたり、ばかな」
「めずらしく、書を読んでいるな、唐詩選か」
「どうでもいい、そんなものは。それよりは貴さま、なぜ、ゆうべの相手を逃がしたのだ」
「ゆうべの相手とは」
「彦兵衛にはかくしても、おれにはかくせるものか」
「そのことか」
「不覚だぞ、林助。貴さまも軽く考えているか知らんが、ひっ捕えてみたら、きっとそいつの背後にある大きなものが分ったかもしれないのだ」