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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
「神の思し召でございましょう」
「仁兵衛夫婦が、あえて主命もものとせずに、わしの母を力づけ、ひそかにわしを産み落させてくれたのじゃが……ひとの心は、たまたま、神業をするものかもしれぬ」
「表向き、三木家のお子と育てられても、お四歳、お五ツと大きゅうおなり遊ばすうち、どこかご気性もお容貌も、臣下の和子たちと異なるので、三木どのの千代松さまは恐ろしい和子かな――と、街でのおうわさも高かったものと、後々、よう皆さまから伺いまする」
「三歳の神童、二十歳だいの駄々馬。少年ごろまでの千代松は――自分の口から申すも異なものだが、まあ、神童のひらめきがあった。坊主の嘘物語などは、すぐ看破していい伏せたものじゃ。……いまでも覚えておるが、五歳、はじめて水戸城に入り、七歳、冠をうけて、将軍家に謁し、晴れて世子となってからは、幼心にも得意であったが、この頃、わしの乳母として、小督という女がいつも側に仕えておった」
「小督さまとは、よいお名まえ。どんなおやさしい乳母様でございましたろう」
「ところが、色が黒うて、ただ男まさりな気丈と、体の逞しいのが取得の乳母じゃ。それをいつも、奥女中たちにからかわれてな、何かにつけ、色の黒いを恥ろうてばかりおった。