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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

辻番所から駈けつけて来たほうは、当然、辻番所へ拉して行こうとし、町中の人たちは、これは友だちを斬った仇だから自分たちの手で存分にする。なんでもそうしなければ虫がおさまらないと、私刑を主張してやまないのである。

そうされなくても、勘太はもう十分に打ちのめされていた。もう虫の息のように、うごきもせずにいたが、まわりの囲みに、隙間を見たので、ふいに躍りあがって、驚く人々をつき仆して、猛然と町の闇へ駈け出した。

こんどは足のつづくかぎり逃げた。そして夜の更けるのを待ってようやく元の旅籠へこっそりもどって来た。

表の戸は閉まっていたが、手をかけてみるとすぐ開いた。自分の帰りのおそいのを案じて、寝もやらずにいる佐々介三郎のすがたがもう眼に見えるここちがした。

「……いま、帰りましたよ」

そっと声をかけてみたが、旅籠のおやじもその家族も、土間のそばの一室に行燈を消して真っ暗に眠っていた。――

そしてただ奥の一間にだけ、まだ寝ない明りがあかあかとさしていた。

六

手さぐりで小桶を土間の隅にさがした。それから雑巾を持った。勘太は落着いている。――ともあれ自分では、まださし迫ってはいないつもりであった。