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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
五
勘太が、われに返って、
「へい。すみません。いま汲んで来ます」
と、小屋のうしろから、二つの水桶を荷担って、河原のほうへ立去ってゆくのを、介三郎と石権は、いま気がついたように振向いて見ていた。
五
水くみ桶の天秤を肩にあてがったまま、勘太は、湊川のそばに立った。
焦けている石河原から、急に氷のような瀬の水へ脛をひたして、
「おお、冷てえ……」
ふたつの桶に水をみたした。
ずしんと、肩に水の重量が加わる。勘太は、しばらく水のなかを去らずに、水底を見つめていた。
赤くさびている兜の鉢金のようなものが透いて見える。ただの鍋かなんぞかも知れないが勘太は、それをさえ足に踏むことを懼れた。
「もしかしたら、延元の戦に、ここで死んだ忠義なひとの兜かもしれない……」
佐々介三郎から聞いている楠公のはなしが頭にあるからであった。
七たび生れて国を護らん
とさいごにまで、天地にちかって戦死したというひとの心を考えて、勘太は、
「……そうだ、うそじゃない。佐々さんもいったように、死んで消えるのは象だけだ。生命は死のうたって死にきれるものじゃない。七生はおろか、いつまでも」
勘太は、身ぶるいした。