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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

八

「ありそうなことだ」

吉保は冷静を欠かない。むしろこの際は検校を咎めず、検校を利用するのが賢明としているらしかった。

「吉保の身辺に危害を謀む刺客の影のさすことは、きょうまで一度や二度のことではなかった。吉保もいつか馴れて来たほどである。……だが、西山荘の隠居には、そも何の憎しみをふくんで、かくは吉保の生命をちぢめんと狙けまわされるのか。物好みというには余りに怖ろしい執念ではある」

と、ひとり慨然としていった。

検校の落度をここで咎めるよりは、検校の恐怖心をたくみに捉えて、自分の流布したいことを、この盲人の口から世間へいわせたほうが賢明である。そう吉保はすぐ考えていたらしかった。

紋太夫もすぐかれの意中を読んでいる。で共々、口をあわせて、検校に聞かせるためいった。

「さだめし、ご不快でしょうが、どうぞてまえに免じて、お忘れください。ご隠居の狂暴はきょうに始まったことでなく、西山へのご退隠も、すべてあなた様のさしがねのように、逆恨みを遊ばしておるにちがいございませぬ。――それをまたご意見もせず、かえって使嗾する側臣などもおりますために」

それからなお、過去にまでさかのぼって、光圀の在職中に、叛意のきざしがあったのを諫言したとか、また後嗣の当主も、病弱でほとほと困るとか、吉保へ詫びるがように見せかけて、実は検校