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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

五

「出さないか。草履だ。はやく持って来いっ」

どなられて、はいと、うろうろ立ったが、また叱られた。

「玄関へではない。ここへ持って来ればいいのだ」

大刀を腰にして、かれは沓ぬぎへ足を落した。――が、十歩ほど先からまた振向いて、

「戸を閉めて、さきへ寝め。もし遅くなっても、心配いたすな」

門を出ると、又四郎は急に足を早めた。元より介三郎のあとを追って。

五

「おういっ」

暗い冬の風のなかに、先の影は立ちどまった。――振り向いて近づく跫音を待っている。

もう町に近い枯れ野だった。道の曲りかどに高い夫婦松の梢が蕭々と星にうごいている。

「佐々。待て」

「……お。又四郎か」

「はなしがある、いいのこしたことをいいに来たのだ。そこの木の根へでも腰かけてくれ」

「もうはなしはないはずだが」

「――と、おれも思ったが、つらつら考えてみると、同じお方を主君と仰ぐ同僚の縁は浅くない。行きずりの友などとはわけがちがう」

「その友を裏切っても、おぬしは独り無事でいたいといったではないか。にわかに恥じて、追いかけて来たか」

「いや、その考えに、変化はない。……が、以前、貴公に諫められた誼みがある。