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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

二

「――雪乃どの、蕗どの。ここでお会いくださると仰せられます。おすすみなさい」

そう告げて、左右のふすまを開くと、彼は身を端へ退けた。

雪乃とお蕗の母子は、畳のなかへ沈み入るばかり、両手をつかえていた。

そこの一部屋には、何もなかった。粗壁とひとつの切窓があるだけだった。

それだけに、母子のすがたは、鮮やかに、浮いて見えた。佗びた茶室のなかに、ふたつの仁清の茶碗でも置いてあるようだった。

老公の眼は、ややしばらく、母子のすがたにそそがれていた。どんな思いをなされているだろうか――とまでは考えても、居あわせた人々の若さでは、窺い知ることもできなかった。

「……やれ、久しいのう。さあ入れ。ふたりとも、もそっと寄るがよい」

やがて、老公からの、ことばであった。

二

ゆるされて、母とむすめは、近々と、老公のまえへ来て坐った。

手ずから杯を与えて、

「幾つになったか」

と、年をたずねた。雪乃は、羞恥ましげに、

「ご隠居さまよりも、七歳下でございましたから、いまもたしか、七歳下でございましょう」

と、ほほ笑んで答えた。

「七歳ちがいであったかなあ」

と、追憶のひとみを、ふと恍惚とさせて、