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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
その八十三
一行が土手町に下宿した後二、三月にして暴風雨があった。弘前の人は暴風雨を岩木山の神が祟を作すのだと信じている。神は他郷の人が来て土着するのを悪んで、暴風雨を起すというのである。この故に弘前の人は他郷の人を排斥する。就中丹後の人と南部の人とを嫌う。なぜ丹後の人を嫌うかというに、岩木山の神は古伝説の安寿姫で、己を虐使した山椒大夫の郷人を嫌うのだそうである。また南部の人を嫌うのは、神も津軽人のパルチキュラリスムに感化せられているのかも知れない。
暴風雨の後数日にして、新に江戸から徙った家々に沙汰があった。もし丹後、南部等の生のものが紛れ入っているなら、厳重に取り糺して国境の外に逐えというのである。渋江氏の一行では中条が他郷のものとして目指された。中条は常陸生だといって申し解いたが、役人は生国不明と認めて、それに立退を諭した。五百はやむことをえず、中条に路用の金を与えて江戸へ還らせた。
冬になってから渋江氏は富田新町の家に遷ることになった。そして知行は当分の内六分引を以て給するという達しがあって、実は宿料食料の外何の給与もなかった。これが後二年にして秩禄に大削減を加えられる発端であった。