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しぶえちゅうさい

渋江抽斎

森 鴎外

「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页

青空文庫

その四

そしてこの目的を以て「武鑑」をあさるうちに、土佐の鎌田氏が寛永十一年の一万石以上の諸侯を記載したのを発見した。即ち『治代普顕記』の一節である。沼田さんは幸にわたくしに謄写を許したから、わたくしは近いうちにこの記載を精検しようと思っている。

そんなら今にるまでに、わたくしの見た最古の「武鑑」乃至その類書は何かというと、それは正保二年に作った江戸の「屋敷附」である。これは殆ど完全に保存せられた板本で、末に正保四年と刻してある。ただ題号を刻した紙が失われたので、恣に命じた名が表紙に書いてある。この本が正保四年と刻してあっても、実は正保二年に作ったものだという証拠は、巻中に数カ条あるが、試みにその一つを言えば、正保二年十二月二日に歿した細川三斎が三斎老として挙げてあって、またその第を諸邸宅のオリアンタションのために引合に出してある事である。この本は東京帝国大学図書館にある。

その四

わたくしはこの正保二年に出来て、四年に上梓せられた「屋敷附」より古い「武鑑」の類書を見たことがない。降って慶安中の「紋尽」になると、現に上野の帝国図書館にも一冊ある。しかし可笑しい事には、外題に慶安としてあるものは、後に寛文中に作ったもので、真に慶安中に作ったものは、内容を改めずに、後の年号を附して印行したものである。