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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
その六十一
金は手島を介して上ることを約してある。面を識らざる三人に交付することは出来ぬというのである。三人は手島の来ぬ事故を語った。抽斎は信ぜないといった。
三人は互に目語して身を起し、刀のに手を掛けて抽斎を囲んだ。そしていった。我らの言を信ぜぬというは無礼である。かつ重要の御使を承わってこれを果さずに還っては面目が立たない。主人はどうしても金をわたさぬか。すぐに返事をせよといった。
抽斎は坐したままで暫く口を噤んでいた。三人が偽の使だということは既に明である。しかしこれと格闘することは、自分の欲せざる所で、また能わざる所である。家には若党がおり諸生がおる。抽斎はこれを呼ぼうか、呼ぶまいかと思って、三人の気色を覗っていた。
この時廊下に足音がせずに、障子がすうっと開いた。主客は斉く愕きた。
その六十一
刀のに手を掛けて立ち上った三人の客を前に控えて、四畳半の端近く坐していた抽斎は、客から目を放さずに、障子の開いた口を斜に見遣った。そして妻五百の異様な姿に驚いた。
五百は僅に腰巻一つ身に著けたばかりの裸体であった。口には懐剣を銜えていた。そして閾際に身を屈めて、縁側に置いた小桶二つを両手に取り上げるところであった。