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しぶえちゅうさい

渋江抽斎

森 鴎外

「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页

青空文庫

その二十三

五郎作の能文はこの手紙一つに徴して知ることが出来るのである。

その二十三

わたくしの獲た五郎作の手紙の中に、整骨家名倉弥次兵衛の流行を詠んだ狂歌がある。臂を傷めた時、親しく治療を受けて詠んだのである。「研ぎ上ぐる刃物ならねどうちし身の名倉のいしにかゝらぬぞなき。」わたくしは余り狂歌を喜ばぬから、解事者を以て自らおるわけではないが、これを蜀山らの作に比するに、遜色あるを見ない。庭は五郎作に文筆の才がないと思ったらしく、歌など少しは詠みしかど、文を書くには漢文を読むようなる仮名書して終れりといっているが、此の如きは決して公論ではない。※(「竹かんむり/(土へん+鈞のつくり)」、第3水準1-89-63)庭は素漫罵の癖がある。五郎作と同年に歿した喜多静廬を評して、性質風流なく、祭礼などの繁華なるを見ることを好めりといっている。風流をどんな事と心得ていたか。わたくしは強いて静廬を回護するに意があるのではないが、これを読んで、トルストイの芸術論に詩的という語の悪解釈を挙げて、口を極めて嘲罵しているのを想い起した。わたくしの敬愛する所の抽斎は、角兵衛獅子を観ることを好んで、奈何なる用事をも擱いて玄関へ見に出たそうである。