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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
その三
その時幸に森がまだ生存していて、校正したのである。
世間に多少抽斎を知っている人のあるのは、この支那人の手で刊行せられた『経籍訪古志』があるからである。しかしわたくしはこれに依って抽斎を知ったのではない。
わたくしは少い時から多読の癖があって、随分多く書を買う。わたくしの俸銭の大部分は内地の書肆と、ベルリン、パリイの書估との手に入ってしまう。しかしわたくしはかつて珍本を求めたことがない。或る時ドイツのバルテルスの『文学史』の序を読むと、バルテルスが多く書を読もうとして、廉価の本を渉猟し、『文学史』に引用した諸家の書も、大抵レクラム版の書に過ぎないといってあった。わたくしはこれを読んで私かに殊域同嗜の人を獲たと思った。それゆえわたくしは漢籍においても宋槧本とか元槧本とかいうものを顧みない。『経籍訪古志』は余りわたくしの用に立たない。わたくしはその著者が渋江と森とであったことをも忘れていたのである。
その三
わたくしの抽斎を知ったのは奇縁である。わたくしは医者になって大学を出た。そして官吏になった。然るに少い時から文を作ることを好んでいたので、いつの間にやら文士の列に加えられることになった。