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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
その百七
「人間は夜逆さになっている」云々といったのである。五百は怪んで、鮓久が去った後に兄に問うて、始て地動説の講釈を聞いた。その後兄の机の上に『気海観瀾』と『地理全志』とのあるのを見て、取って読んだ。
抽斎に嫁した後、或日抽斎が「どうも天井に蝿が糞をして困る」といった。五百はこれを聞いていった。「でも人間も夜は蝿が天井に止まったようになっているのだと申しますね」といった。抽斎は妻が地動説を知っているのに驚いたそうである。
五百は漢訳和訳の洋説を読んで慊ぬので、とうとう保にスペルリングを教えてもらい、ほどなくウィルソンの読本に移り、一年ばかり立つうちに、パアレエの『万国史』、カッケンボスの『米国史』、ホオセット夫人の『経済論』等をぽつぽつ読むようになった。
五百の抽斎に嫁した時、婚を求めたのは抽斎であるが、この間に或秘密が包蔵せられていたそうである。それは抽斎をして婚を求むるに至らしめたのは、阿部家の医師石川貞白が勧めたので、石川貞白をして勧めしめたのは、五百自己であったというのである。
その百七
石川貞白は初の名を磯野勝五郎といった。何時の事であったか、阿部家の武具係を勤めていた勝五郎の父は、同僚が主家の具足を質に入れたために、永の暇になった。