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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
その五
わたくしは直接に渋江氏と交ったらしいという飯田巽さんを、先ず訪ねようと思って、唐突ではあったが、飯田さんの西江戸川町の邸へ往った。飯田さんは素と宮内省の官吏で、今某会社の監査役をしているのだそうである。西江戸川町の大きい邸はすぐに知れた。わたくしは誰の紹介をも求めずに往ったのに、飯田さんは快く引見して、わたくしの問に答えた。飯田さんは渋江道純を識っていた。それは飯田さんの親戚に医者があって、その人が何か医学上にむずかしい事があると、渋江に問いに往くことになっていたからである。道純は本所御台所町に住んでいた。しかし子孫はどうなったか知らぬというのである。
その五
わたくしは飯田さんの口から始めて道純という名を聞いた。これは『経籍訪古志』の序に署してある名である。しかし道純が抽斎と号したかどうだか飯田さんは知らなかった。
切角道純を識っていた人に会ったのに、子孫のいるかいないかもわからず、墓所を問うたつきをも得ぬのを遺憾に思って、わたくしは暇乞をしようとした。その時飯田さんが、「ちょいとお待下さい、念のために妻にきいて見ますから」といった。
細君が席に呼び入れられた。