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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
或日東堂が役所で公用の書状を発せようとして、藤田に稿を属せしめた。藤田は案を具して呈した。
「藤田。まずい文章だな。それにこの書様はどうだ。もう一遍書き直して見い。」東堂の顔は頗る不機嫌に見えた。
原来平井氏は善書の家である。祖父峩斎はかつて筆札を高頤斎に受けて、その書が一時に行われたこともある。峩斎、通称は仙右衛門、その子を仙蔵という。後父の称を襲ぐ。この仙蔵の子が東堂である。東堂も沢田東里の門人で書名があり、かつ詩文の才をさえ有していた。それに藤田は文においても書においても、専門の素養がない。稿を更めて再び呈したが、それが東堂を満足せしめるはずがない。
「どうもまずいな。こんな物しか出来ないのかい。一体これでは御用が勤まらないといっても好い。」こういって案を藤田に還した。
藤田は股栗した。一身の恥辱、家族の悲歎が、頭を低れている青年の想像に浮かんで、目には涙が涌いて来た。
この時貞固が役所に来た。そして東堂に問うて事の顛末を知った。
貞固は藤田の手に持っている案を取って読んだ。
「うん。一通わからぬこともないが、これでは平井の気には入るまい。足下は気が利かないのだ。