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しぶえちゅうさい

渋江抽斎

森 鴎外

「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页

青空文庫

、『留真譜』、『護痘要法』、『四つの海』の四種に過ぎない。その他は皆写本で、徳富蘇峰さんの所蔵の『※語』、富士川游さんの所蔵の『直舎伝記抄』及已に散佚した諸書を除く外は、皆保さんが蔵している。

抽斎の著述は概ね是の如きに過ぎない。致仕した後に、力を述作に肆にしようと期していたのに、不幸にして疫癘のために命を隕し、かつて内に蓄うる所のものが、遂に外に顕るるに及ばずして已んだのである。

わたくしは此に抽斎の修養について、少しく記述して置きたい。考証家の立脚地から観れば、経籍は批評の対象である。在来の文を取って渾侖に承認すべきものではない。是において考証家の末輩には、破壊を以て校勘の目的となし、毫もピエテエの迹を存せざるに至るものもある。支那における考証学亡国論の如きは、固より人文進化の道を蔽塞すべき陋見であるが、考証学者中に往々修養のない人物を出だしたという暗黒面は、その存在を否定すべきものではあるまい。

しかし真の学者は考証のために修養を廃するような事はしない。ただ修養の全からんことを欲するには、考証を闕くことは出来ぬと信じている。何故というに、修養には六経を窮めなくてはならない。