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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
宗右衛門はまだ七歳の銓に読書を授け、この子が大きくなったなら士の女房にするといっていた。銓は記性があって、書を善く読んだ。こういう時に、宗右衛門が酒気を帯びていると、銓を側に引き附けて置いて、忍耐を教えるといって、戯のように煙管で頭を打つことがある。銓は初め忍んで黙っているが、後には「お父っさん、厭だ」といって、手を挙げて打つ真似をする。宗右衛門は怒って「親に手向をするか」といいつつ、銓を拳で乱打する。或日こういう場合に、安が停めようとすると、宗右衛門はこれをも髪を攫んで拉き倒して乱打し、「出て往け」と叫んだ。
安は本宗右衛門の恋女房である。天保五年三月に、当時阿部家に仕えて金吾と呼ばれていた、まだ二十歳の安が、宿に下って堺町の中村座へ芝居を看に往った。この時宗右衛門は安を見初めて、芝居がはねてから追尾して行って、紺屋町の日野屋に入るのを見極めた。同窓の山内栄次郎の家である。さては栄次郎の妹であったかというので、直ちに人を遣って縁談を申し込んだのである。
こうしたわけで貰われた安も、拳の下に崩れた丸髷を整える遑もなく、山内へ逃げ帰る。栄次郎の忠兵衛は広瀬を名告る前の頃で、会津屋へ調停に往くことを面倒がる。