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しぶえちゅうさい

渋江抽斎

森 鴎外

「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页

青空文庫

生徒は多く不平に堪えなかった。中にも東京人某は、己が上位に置かれているにもかかわらず、「この教授法では延寿太夫が最優等生になる」と罵った。

保は英語を操い英文を読むことを志しているのに、学校の現状を見れば、所望にう科目は絶てなかった。また縦い未来において英文の科が設けられるにしても、共に入学した五十四人の過半は純乎たる漢学諸生だから、スペルリングや第一リイダアから始められなくてはならない。保はこれらの人々と歩調を同じうして行くのを堪えがたく思った。

保はどうにかして退学したいと思った。退学してどうするかというと、相識のフルベックに請うて食客にしてもらっても好い。また誰かのボオイになって海外へ連れて行ってもらっても好い。モオレエ夫婦などの如く、現に自分を愛しているものもある。頼みさえしたら、ボオイに使ってくれぬこともあるまい。こんな夢を保は見ていた。

保は此の如くに思惟して、校長、教師に敬意を表せず、校則、課業を遵奉することをも怠り、早晩退学処分の我頭上に落ち来らんことを期していた。校長諸葛信澄の家に刺を通ぜない。その家が何町にあるかをだに知らずにいる。