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しぶえちゅうさい

渋江抽斎

森 鴎外

「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页

青空文庫

祁寒の時を除く外は、朝五時に起きて掃除をし、手水を使い、仏壇を拝し、六時に朝食をする。次で新聞を読み、暫く読書する。それから午餐の支度をして、正午に午餐する。午後には裁縫し、四時に至って女中を連れて家を出る。散歩がてら買物をするのである。魚菜をも大抵この時買う。夕餉は七時である。これを終れば、日記を附ける。次でまた読書する。倦めば保を呼んで棋を囲みなどすることもある。寝に就くのは十時である。

隔日に入浴し、毎月曜日に髪を洗った。寺には毎月一度詣で、親と夫との忌日には別に詣でた。会計は抽斎の世にあった時から自らこれに当っていて、死にるまで廃せなかった。そしてその節倹の用意には驚くべきものがあった。

五百の晩年に読んだ書には、新刊の歴史地理の類が多かった。『兵要日本地理小志』はその文が簡潔で好いといって、傍に置いていた。

奇とすべきは、五百が六十歳を踰えてから英文を読みはじめた事である。五百は頗る早く西洋の学術に注意した。その時期を考うるに、抽斎が安積艮斎の書を読んで西洋の事を知ったよりも早かった。五百はまだ里方にいた時、或日兄栄次郎が鮓久に奇な事を言うのを聞いた。