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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
砂糖店は開かれた。そして繁昌した。品も好く、秤も好いと評判せられて、客は遠方から来た。汁粉屋が買いに来る。煮締屋が買いに来る。小松川あたりからわざわざ来るものさえあった。
或日貴婦人が女中大勢を連れて店に来た。そして氷砂糖、金米糖などを買って、陸に言った。「士族の女で健気にも商売を始めたものがあるという噂を聞いて、わたしはわざわざ買いに来ました。どうぞ中途で罷めないで、辛棒をし徹して、人の手本になって下さい」といった。後に聞けば、藤堂家の夫人だそうであった。藤堂家の下屋敷は両国橋詰にあって、当時の主人は高猷、夫人は一族高の女であったはずである。
或日また五百と保とが寄席に往った。心打は円朝であったが、話の本題に入る前に、こういう事を言った。「この頃緑町では、御大家のお嬢様がお砂糖屋をお始になって、殊の外御繁昌だと申すことでございます。時節柄結構なお思い立で、誰もそうありたい事と存じます」といった。話の中にいわゆる心学を説いた円朝の面目が窺われる。五百は聴いて感慨に堪えなかったそうである。
この砂糖店は幸か不幸か、繁昌の最中に閉じられて、陸は世間の同情に酬いることを得なかった。