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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
然らば長局の南一の側に、五百はいたはずである。五百らが夕方になると、長い廊下を通って締めに往かなくてはならぬ窓があった。その廊下には鬼が出るという噂があった。鬼とはどんな物で、それが出て何をするかというに、誰も好くは見ぬが、男の衣を着ていて、額に角が生えている。それが礫を投げ掛けたり、灰を蒔き掛けたりするというのである。そこでどの部屋子も窓を締めに往くことを嫌って、互に譲り合った。五百は穉くても胆力があり、武芸の稽古をもしたことがあるので、自ら望んで窓を締めに往った。
暗い廊下を進んで行くと、果してちょろちょろと走り出たものがある。おやと思う間もなく、五百は片頬に灰を被った。五百には咄嗟の間に、その物の姿が好くは見えなかったが、どうも少年の悪作劇らしく感ぜられたので、五百は飛び附いて掴まえた。
「許せ/\」と鬼は叫んで身をもがいた。五百はすこしも手を弛めなかった。そのうちに外の女子たちが馳せ附けた。
鬼は降伏して被っていた鬼面を脱いだ。銀之助様と称えていた若者で、穉くて美作国西北条郡津山の城主松平家へ壻入した人であったそうである。
津山の城主松平越後守斉孝の次女徒の方の許へ壻入したのは、家斉の三十四人目の子で、十四男参河守斉民である。