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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页
その五十三
それには病気を申立てる。そうすると、津軽家の方で勤めていることも出来ない。己は隠居することに極めた。父は五十九歳で隠居して七十四歳で亡くなったから、己も兼て五十九歳になったら隠居しようと思っていた。それがただ少しばかり早くなったのだ。もし父と同じように、七十四歳まで生きていられるものとすると、これから先まだ二十年ほどの月日がある。これからが己の世の中だ。己は著述をする。先ず『老子』の註を始として、迷庵斎に誓った為事を果して、それから自分の為事に掛かるのだ」といった。公儀へ召されるといったのは、奥医師などに召し出されることで、抽斎はその内命を受けていたのであろう。然るに運命は抽斎をしてこのヂレンマの前に立たしむるに至らなかった。また抽斎をして力を述作に肆にせしむるに至らなかった。
その五十三
八月二十二日に抽斎は常の如く晩餐の饌に向った。しかし五百が酒を侑めた時、抽斎は下物の魚膾に箸を下さなかった。「なぜ上らないのです」と問うと、「少し腹工合が悪いからよそう」といった。翌二十三日は浜町中屋敷の当直の日であったのを、所労を以て辞した。この日に始て嘔吐があった。