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しぶえちゅうさい

渋江抽斎

森 鴎外

「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页

青空文庫

と、五百は訝かしげに答えた。

「はてな。あれから塾へは帰られませんが。」椿庭はこういって眉を蹙めた。

五百は即時に人を諸方に馳せて捜索せしめた。優善の所在はすぐに知れた。初午の夜に無銭で吉原に往き、翌日から田町の引手茶屋に潜伏していたのである。

五百は金を償って優善を帰らせた。さて比良野貞固、小野富穀の二人を呼んで、いかにこれに処すべきかを議した。幼い成善も、戸主だというので、その席に列った。

貞固は暫く黙していたが、容を改めてこういった。「この度の処分はただ一つしかないとわたくしは思う。玄碩さんはわたくしの宅で詰腹を切らせます。小野さんも、お姉えさんも、三坊も御苦労ながらお立会下さい。」言い畢って貞固は緊しく口を結んで一座を見廻した。優善は矢島氏を冒してから、養父の称を襲いで玄碩といっていた。三坊は成善の小字三吉である。

富穀は面色土の如くになって、一語を発することも得なかった。

五百は貞固の詞を予期していたように、徐に答えた。「比良野様の御意見は御尤と存じます。度々の不始末で、もうこの上何と申し聞けようもございません。いずれ篤と考えました上で、改めてこちらから申し上げましょう」