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しぶえちゅうさい

渋江抽斎

森 鴎外

「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页

青空文庫

わたくしは保さんに、抽斎の事を探り始めた因縁を話した。そして意外にも、僅に二歳であった保さんが、父に「武鑑」を貰って翫んだということを聞いた。それは出雲寺板の「大名武鑑」で、鹵簿の道具類に彩色を施したものであったそうである。それのみではない。保さんは父が大きい本箱に「江戸鑑」と貼札をして、その中に一ぱい古い「武鑑」を収めていたことを記憶している。このコルレクションは保さんの五、六歳の時まで散佚せずにいたそうである。「江戸鑑」の箱があったなら、江戸図の箱もあっただろう。わたくしはここに『江戸鑑図目録』の作られた縁起を知ることを得たのである。

わたくしは保さんに、父の事に関する記憶を、箇条書にしてもらうことを頼んだ。保さんは快諾して、同時にこれまで『独立評論』に追憶談を載せているから、それを見せようと約した。

保さんと会見してから間もなく、わたくしは大礼に参列するために京都へ立った。勤勉家の保さんは、まだわたくしが京都にいるうちに、書きものの出来たことを報じた。わたくしは京都から帰って、直に保さんを牛込に訪ねて、書きものを受け取り、また『独立評論』