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しぶえちゅうさい

渋江抽斎

森 鴎外

「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」1916(大正5)年1月13日~5月17日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 页

青空文庫

といい、晋を賞して、「而汝能継我業」といっている。

わたくしはいまだ過去帖を獲ざる前にこれを読んで、善直は京水の初の名であろうと思った。京水の墓誌に多病を以て嗣を廃せらるというように書してあったというのと、符節は合するようだからである。過去帖に従えば、庶子善直と姪京水とは別人でなくてはならない。しかし善直と京水とが同人ではあるまいか、京水が玄俊の子でなくて、初代瑞仙の子ではあるまいかという疑が、今に迄るまでいまだ全くわたくしの懐を去らない。特に彼過去帖に遠近の親戚百八人が挙げてあるのに、初代瑞仙のただ一人の実子善直というものが痕跡をだに留めずに消滅しているという一事は、この疑を助長する媒となるのである。

そしてわたくしは撰者不詳の墓誌の残欠に、京水が刺ってあるのを見ては、忌憚なきの甚だしきだと感じ、晋が養父の賞美の語を記して、一の抑損の句をも著けぬのを見ては、簡傲もまた甚だしいと感ずることを禁じ得ない。わたくしには初代瑞仙独美、二世瑞仙晋、京水の三人の間に或るドラアムが蔵せられているように思われてならない。わたくしの世の人に教を乞いたいというのはこれである。