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さんごくし
三国志(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《三国志(三)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 312,452 字 · 628 頁
曹操は、その熱い耳へ、唇をよせて、
「あなたへ恩を売るわけではないが、予の胸一つで張繍一族を亡ぼすも生かすも自由だということは、お分りだろう。……さすれば、予がなんのために、そんな寛大な処置をとったか。……夫人」
幅広い胸のなかに、がくりと、人形のような細い頸を折って仰向いた夫人は、曹操の火のような眸に会って、麻酔にかかったようにひきつけられた。
「予の熱情を、御身はなんと思う。……淫らと思うか」
「い……いいえ」
「うれしいと思うか」
たたみかけられて、夫人の鄒氏はわなわなふるえた。蝋涙のようなものが頬を白く流れる。――曹操は、唇をかみ、つよい眸をその面に屹とすえて、
「はっきりいえっ!」
難攻の城を攻めるにも急激な彼は、恋愛にも持ち前の短気をあらわして武人らしく云い放った。
すこし面倒くさくなったのである。
「おいっ、返辞をせんかっ」
ゆすぶられた花は、露をふりこぼしてうつ向いた。そして唇のうちで、何かかすかに答えた。
嫌とも、はいとも、曹操の耳には聞えていない。しかし曹操はその実、彼女の返辞などを気にしているのではない。
「何を泣く、涙を拭け」
云いながら、彼は室内を大股に濶歩した。