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さんごくし

三国志(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(三)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 312,452 字 · 628 頁

青空文庫

二

こんどは安心しているかと思ったからである。

――が、玄徳の母も、夫人の面も、石か珠のように、血の気もなく、また、何の表情も示さなかった。

涙のすじは、止めどなく、二つの面にながれている。そして物をいうことを忘れたように、唇をむすんでいた。

「安心せい。これで、安心したであろう」

呂布は恩を押売りするようにいったけれど、夫人も老母もその頭を下げもしなかった。歓びや感謝の念とは似ても似つかない恨みのこもった眼の光が、涙の底から針のように、呂布の面を、じっと射ていた。

「そうだ。これから俺はいそがしい身だ。――こらっ番士、きっと、護衛を申しつけたぞ」

呂布は、自分を誤魔化すように、そう云いちらして立ち去った。

二

さて、玄徳のほうでは、留守の徐州にそんな異変が起ったとは知るはずもなく、敵の紀霊を追って、その日、淮陰の河畔へ陣をすすめていた。

黄昏ごろ――

関羽は部下を従えて、一巡り前線の陣地を見廻って戻ってきた。

すると、歩哨の兵が、

「敵か」

「敵らしいぞ」と、野末のほうへ、小手をかざしてさわぎ合っている。

見ると、なるほど、舂きかけた曠野の果てから、夕陽を負ってとぼとぼとこっちへ向って来る一群れの人馬がある。