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さんごくし

三国志(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(三)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 312,452 字 · 628 頁

青空文庫

遠いお方が何も知ろうはずはない」

その夜、関羽はよく眠らなかった。そして翌る日も、番兵小屋に独坐して、書物を手にしていたが、なんとなく心も書物にはいらなかった。

すると、ひとりの行商人がどこから紛れこんできたか、彼の小屋の窓へ立ち寄って、

「お返辞は書けていますか」と、小声でいった。

よく見ると、ゆうべの男だった。

「おまえは、何者か」と、ただすと、さらに四辺をうかがいながら、

「袁紹の臣で陳震と申すものです。一日もはやくこの地をのがれて、河北へ来給えとお言伝てでございます」

「こころは無性にはやるが、二夫人のお身を守護して参らねばならん……身ひとつなれば、今でもゆくが」

「いかがなさいますか。その脱出の計は」

「計も策もない。さきに許都へまいる折、曹操とは三つの約束をしてある。先頃から幾つかの功をたてて、よそながら彼への恩返しもしてあることだから、あとはお暇を乞うのみだ。――来るときも明白に、また、去るときも明白に、かならず善処してまいる」

「……けれど、もし曹操が、将軍のお暇をゆるさなかったらどうしますか」

関羽は、微笑して、

「そのときは、肉体を捨て、魂魄と化して、故主のもとにまかり帰るであろう」