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しんらん

親鸞

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《親鸞(しんらん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 頁

青空文庫

三

何か、低声で囁きあっていた朝臣たちは、やがて思いきったように、「ちょっと、僧正のお耳へ入れておきたいことがありますが」と、いいにくそうにいいだした。

三

「ほ? ……何でおざろう」

「実は、この正月にも、あちこちで、僧正のおん身に対して、忌わしい沙汰する者があるのでして」

「世間じゃもの、誰のことでも、毀誉褒貶はありがちじゃ」

「しかし、捨てておいては、意外なご災難にならぬとも限りませぬ。僧正には、まだ何もお聞きなさいませぬか」

「知らぬ」と、慈円はこともなげにかぶりを振った。範宴は、側から膝をすすめて、

「お客人」と、呼びかけた。

「師の君のご災難とは心がかり、して、それの取沙汰とは何を問題にして」

「やはり、和歌のことからです。――この正月、御所の歌会始めに主上から恋という御題が仰せ出されたのです。その時、僧正の詠進されたお歌は、こういうのでありました」と客の朝臣は、低い声に朗詠のふしをつけて、

わが恋は

松をしぐれの

そめかねて

真葛ヶ原に

風さわぐなり

「なるほど……。そして」

「人というものは意外なところへ理窟をつけるもので、僧正のこの歌が、やがて、大宮人や、僧門の人々に、喧ましい問題をまき起す種になろうとは、われらも、その時は、少しも思いませんでした」