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しんらん

親鸞

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《親鸞(しんらん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 頁

青空文庫

七

弁円は、春風のような彼の姿と――その手の先から、思わず一歩退いて、

(そんな欺瞞に)と、呼吸のうちで叱咤し、

(そんな甘手にかかるおれではない)と、満身の殺気を眸にあつめて、炬のように睨まえたが、なんとはなく、体の筋を抜かれたように、眸にも、ここへ来るまでの憎悪や兇暴な勢いを断ちきれなくなった。

「…………」

「…………」親鸞は、それなりものをいわないし、弁円も黙ってしまった。――ただ呼吸をしているのみで、じっと、縁の上と下で、対し合っているのだった。――火と水のように。

燃えるだけのものを、弁円は今、五臓から四肢全体に燃やしきっていた。毛の一すじまで、針のごとくさせて汗をふき、内面の毒炎を、湯気のように立てていた。

「ウウーム」爪を怒らせて迫った猛虎が、はたと、何かにためらって、その飛躍を遮られているように、弁円は、いたずらに自分の威嚇に持ち疲れてきた。

この一瞬、弁円の眼に映っている親鸞は、まったく、常々彼が思い憎んでいた親鸞ではなかったのである。彼の憎悪は、とたんに鉾を鈍らせてしまったのである。

板敷山の呪壇に、一七日のあいだ、護摩を焚き、呪念をこらして、眼に描きだしていた怨敵親鸞は、さながら自分を呪う悪鬼とばかり見えていたが――今、眼のまえにある親鸞を仰げば、三十二相円満な如菩薩の笑顔そのままではないか。