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しんらん
親鸞
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《親鸞(しんらん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 頁
八
若い旅僧の姿が下の方に見えた。笠に手をかけながらその若い僧は喘いで上ってきた。
「もしっ、お山の衆」
「おう、なんだ」
「おうかがいいたしますが、大乗院はまだ峰の方でしょうか」
「大乗院なら横川の飯室谷だ。この渓流にそうて、もっと下る、そして対う岸へ渡る。こんな方へ来ては来過ぎているのだ」若僧はそう教えられて深い渓谷の道をかなしそうに振向いた。雪解けの赤い濁流が、樹々の間に奔濤をあげて鳴っていた。
「ありがとうございました」やむなく若僧は岩にすがってまた谷の方へ降りて行くのである。綿のように疲れているらしいその足どりを見送って、提婆は、
「あぶないぞッ……」と注意していた。
まったくこの谷に馴れない者には危険な瀬や崖ばかりであった。対岸へ越えるにしても、橋もなし、岩伝いに行く頼りもない。若僧は、怖ろしい激流の形相をながめたまま、嘆息をついていた。そして、休んでは下流へ辿ってゆく。雪で折れた朽ち木に道を塞がれ、そこでも、茫然と、気がくじけてしまう。
心細さはそればかりではなかった。沢の樹々の間はもうほのぐらく暮色が迫っている。そして、四明の山ふところから飛んでくる氷った雪か、また灰色の雲がこぼしてゆく霰か、白いものが、小紋のように、一しきり音をさせて沢へ落ちてきた。