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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

「ありません」

「はやくひとり娶らないと、母上がなんでもやっている様子だが、あのお年で、お気の毒ではないか」

「…………」

劉備は、そんなことを訊かれたので、またふと、忘れていた鴻芙蓉の佳麗なすがたを思い出してしまった。

で、つい答えを忘れて、何となく眼をあげると、眼の前へ、白桃の花びらが、霏々と情あるもののように散ってきた。

「劉備や。皆さんも、もうお支度はよろしいのですか」

厨に見えなかった母が、いつの間にか、三名の後ろにきて告げた。

三名が、いつでもと答えると、母はまた、いそいそと厨房のほうへ去った。

近隣の人手を借りてきたのであろう。きのう張飛の姿を見て、きゃっと魂消て逃げた娘も、その娘の恋人の隣家の息子も、ほかの家族も、大勢して手伝いにきた。

やがて、まず一人では持てないような酒瓶が祭壇の莚へ運ばれてきた。

それから豚の仔を丸ごと油で煮たのや、山羊の吸物の鍋や、干菜を牛酪で煮つけた物だの、年数のかかった漬物だの――運ばれてくるごとに、三名は、その豪華な珍味の鉢や大皿に眼を奪われた。

劉備さえ、心のうちで、

「これは一体、どうしたことだろう」と、母の算段を心配していた。