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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

六

母は、土炉へ、火をおこしていた。その前にひざまずいて劉備が茶壺を差出すと、その時、何が母の眼に映ったのであろうか、母は手を出そうともしないで、劉備の身のまわりを改まった眸でじっと見つめた。

六

劉備は、母がにわかに改まって自分の身なりを見ているので、

「どうしたのですかおっ母さん」

いぶかしげに訊いた。

母は、いつになく厳粛な容子をつくって、

「阿備」と、声まで、常とはちがって呼んだ。

「はい。何ですか」

「お前の佩いている剣は、それは誰の剣ですか」

「わたくしのですが」

「嘘をおいい。旅に出る前の物とはちがっている。お前の剣は、お父さんから遺物にいただいた――ご先祖から伝わっている剣のはずです。それを、何処へやってしまったのです?」

「……はい」

「はいではありません。片時でも肌身から離してはなりませぬぞと、わしからもくれぐれいってあるはずです。どうしたのだえ、あの大事な剣は」

「実は、その……」

劉備はさしうつ向いてしまった。

母の顔は、いよいよ峻厳に変っていた。劉備が口ごもっていると、なお追及して、

「まさか手放してしまったのではあるまいね」と念を押した。

劉備は、両手をつかえて、