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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

六

「貂蝉、貂蝉っ……」

それは、わが家の後園を、狂気のごとく彷徨いあるいている呂布の声だった。

そして、小閣の内へかくれると、そこに横たえてある貂蝉の冷たい体を抱きあげてはまた、「なぜ死んだ」と、頬ずりした。

貂蝉は、答えもせぬ。

彼女は、塢城の炎の中から、呂布の手にかかえられて、この長安へ運ばれ、呂布の邸にかくされていたが、呂布がふたたび戦場へ出て行った後で、ひとり後園の小閣にはいって、見事、自刃してしまったのである。

「もう貂蝉も、おれのものだ。はれておれの妻となった」

やがて帰って来た呂布は、それまでの夢を打破られてしまった。

貂蝉の自殺が、

「なぜ死んだか」

彼には解けなかった。

「――貂蝉は、あんなにも、おれを想っていたのに。おれの妻となるのを楽しんでいたのに」

と思い迷った。

貂蝉は、何事も語らない。

だが、その死顔には、なんの心残りもないようであった。

――すべきことを為しとげた。

微笑の影すら唇のあたりに残っているように見えた。

彼女の肉体は獣王の犠牲にひとたびは供されたが、今は彼女自身のものに立ち返っていた。天然の麗質は、死んでからよけいに珠のごとく燦いていた。