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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

痴蝶鏡

一

「――どうしているだろう、貂蝉は今頃」

そんなことばかり考えた。

董太師の館へ伴われて行ったという貂蝉が、どんな一夜を明かしているかと、妄想をたくましゅうして、果ては、牀のうえにじっとしていられなくなった。

呂布は、帳を排して、窓外へ眼をやった。そして彼女のいる相府の空をぼんやり眺めていた。

鴻が鳴き渡ってゆく。

朧月が更けている。――夜はまだ明けず、雲も地上も、どことなく薄明るかった。庭前を見れば、海棠は夜露をふくみ、茶は夜靄にうな垂れている。

「ああ」

彼は、独り呻きながら、また、牀へ横たわった。

「こんなに心のみだれるほど想い悩むのは、俺として生れてはじめてだ。――貂蝉、貂蝉、おまえはなぜ、あんな蠱惑な眼をして、おれの心を囚えてしまったのだ」

彼は、夜明けを待ちかねた。

――が、朝となれば、彼は毅然たる武将だった。邸にも多くの武士を飼っている彼だ。朝陽を浴びて颯爽と、例の赤兎馬に乗って、丞相府へ出仕した。

べつに、そう急用もなかったのであるが、彼は早速、董卓の閣へ出向いて、

「太師はお目ざめですか」と、護衛の番将に訊ねた。

番将は懶げに、そこから後堂の秘園をふり向いて、